「DISTANCE/ディスタンス」
 
あらすじ
  カルト教団「真理の方舟」が無差別大量殺人を起こし、
  教団によって実行犯は殺害され、教祖も自殺という衝撃の事件から3年。
  実行犯メンバーの遺族は今年も家族の供養に山の小さな湖へやってきた。
  しかし乗ってきた車が盗まれ、居合わせた元信者の男と共に
  信者が住んでいたロッジで一夜を過ごすこととなる。
  役者に最低限の脚本を与えて後は全てアドリブをさせ、
  BGM無し、手ぶれカメラで撮影という新しい演出方法で撮られた作品。

キャッチコピー
  僕たちは被害者なのか、加害者なのか

感想
  当然、オウム真理教の松本サリン事件がモチーフになっている。
  が、描かれるのは信者の遺族のその後の物語で、事件そのものではない。
  アドリブによる自然な演技と、手持ちカメラによる微妙な揺れ、
  そしてBGMが無いことによって、本当に実在する光景のように錯覚する。
  ドキュメンタリータッチのようでいて、そうでない不思議な感じ。
  見事に画面の中の光景と、画面の外の視聴者との「距離」を取り払った。
  1夜を2時間で描くということもあって、展開が遅く、
  まぶたが重くなることが何回かあったが、それもご愛嬌。
  流動食のような頭使わないエンターティメント映画ばっかり見てると、
  脳みそ腐っちゃうから、たまにはこういう考える映画もアリかと。
  ちゃんと消化できなくても、少しでも噛んで飲み込めば、
  ただ何も考えずに「わかんねぇよ」と一蹴する馬鹿より数段マシですからね。
  ……とまぁ完全には理解できなかったバカの自己弁護でした。

印象に残ったセリフ
  崖の上の方に咲いている花を見て、
  何故あんな所に咲いているのか考えた結論。
  「下は人間に取られちゃってることが分かってるからじゃない?」
  確かに。

オススメ度
  ★★★☆☆ 考える材料を提供してくれる映画。

教訓
  語り過ぎるドラマより、殆ど語らない映画の方が楽しい。が、辛い。

ネタバレ感想文   下の部分を反転させてください

  遺族たちの前に元信者と教団の拠点のロッジが現れたことによって、
  否応無しに遺族の4人はそれぞれ死んだ家族を思い出す。
  死んだ彼らの生活していたロッジを見ることで、彼らを
  「教団によって奪われた家族」や「人殺しの家族」などという存在ではなく、
  仲間と語り、食べ、寝るという当たり前の行為を行なった
  実際にこの世で生きていた人間だということを再確認し、
  元信者の話によって彼らの持っていた「面倒見の良い人」「静かな人」など
  人間味のある一面が見え始め、彼らが遠い向こう岸の存在では無くなる。
  この「距離」をタイトルが指し示していると考えるのはちょっとこじつけか?

  それと3人とも教団に蝕まれてゆく夫や妻、兄を思い出しているのだが、
  主人公1人だけ「姉」と楽しくしゃべっている場面を思い出す。
  他の3人には全く登場しない楽しい思い出が描かれている、というより
  逆に言えば教団にのめりこんでいく家族の姿を思い出していないのだ。
  これは主人公と「姉」は家族の関係ではなかったいということから
  彼女が狂っていく過程と最後を見ていないからだとも推測できる。
  だとしたらそれほど彼女とは親しい仲ではなかったとも考えられる。
  そんなあの男はいったい何者なのか。
  ラストの「父さん」という一言から実行犯か教祖の息子だとも解釈できる。
  しかしそれなら遺族として山へ供養しに行ったり、
  入院中の老人を家族と偽って見舞いに行ったりするのは何故なのか。
  そういう趣味の人間とも言えないことは無いけど……う〜ん。

  他にもキャッチコピーにもある、加害者の家族としての苦悩とか
  色々脳みそを回転させるべき点はいくつもあるのに、
  もう少しヒントが欲しい不可解なラストのおかげで映画のテーマとは
  異なるところに思考が向かってしまう。
  あのラストや映画の提示した問題の解釈が思いついた人は教えて欲しい。
  この映画、他に誰か見た人と語り合うにはかなり良いかもしれない。
  というか誰か一緒に考えようよ。


 
MANGA WALKER vol.189 より