第35回「無駄に長い名前

 初っ端からいきなり珍問をかまして申し訳ありませんが、皆さんは
 「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」をご存知だろうか。
 これを見たことが無いという人はおそらくいないだろうけど、
 実際に弾いたことがある人はかなり少ないかもしれない。
 ………そうです、この長ったらしい名前こそピアノの正式名称なのです。
 もう少し詳しく言うと、ピアノという楽器が誕生した時に付けられた名前が
 この「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」でした。

 ピアノの原型を生み出したのは、イタリアのチェンバロ職人クリストフォリ。
 チェンバロの音が強弱に乏しいことを不満に思った彼は、
 爪で弦を鳴らす代わりにハンマーで弦を打って鳴らすことによって
 音の強弱を可能にするピアノ・アクションの仕組みを1709年に発明。
 彼はこの楽器を「弱音も強音も出せるチェンバロ」という意味の
 「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と名づけました。
 この長い名前がいつしか「ピアノ」と省略されていったのです。
 ちなみに当時主流のクラヴィコードやチェンバロに比べて
 ピアノは音の立ち上がりが鈍く聞こえるので演奏者には不評で、
 残念ながらクリストフォリの存命中には流行らなかったそうです。

 さて、芸術関係でやたらと長い名前と言えばあの方を外せません。
 パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・
 ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・シブリアーノ・
 センティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソさん。
 「彫刻の森美術館」でお馴染みの芸術家ピカソですね。
 名前ってものは親が子供に「こんな風に育って欲しい」という願いを込めて
 付けるものだと思うのだが、ちょっとピカソの親は欲張りすぎだろう。
 でもこんなに長かったら画数が多すぎて安斎先生は困ってしまうでしょう。
 画数を気にして命名するのは漢字を用いる国限定の風習なのだろうか?

 さて、親が欲張らずに子供本人が欲張りすぎた例が日本に存在します。 
 寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、
 食う寝る所に住む所、やぶら小路ぶら小路、パイポパイポ、
 パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、
 グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助さんだ。
 中盤辺りから「本当にその名前は縁起がいいのか?」とつっこみたくなるが、
 本人が気に入っているのなら仕方が無い……と一概には言えませんね。
 この長ったらしい名前を日常生活で呼ぶのは本人ではなくその周囲の人間。
 もし私だったら「ジュゲム」とは略さず、
 「ポンポコピー」もしくは「ポンポコナ」と略して呼んでやりたい。
 きっと後半部分はその場のノリと勢いでつけちゃって後悔してるだろうから。
 あと勢いついでに「海砂利水魚」の部分も料理名に改名して欲しいですね。

 さて、日本で長い名前と言ったら、
 日本一長い駅名について取り上げなければならないでしょう。
 それは22文字の「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前駅」です。
 鹿島臨海鉄道に属するこの日本一長い駅名は………と続けたいところだが、
 実は1992年に南阿蘇鉄道「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」が誕生。
 平仮名で数えると同じ22文字ですが、ローマ字で比べると
 前者35文字と後者38文字で勝負アリ、王者が交代してしまいました。
 日本一長い駅名の座を奪い取って満面笑みを浮かべたのもつかの間、
 2001年に一畑電鉄「古江駅」が知名度アップを狙って駅名を
 「ルイス・C・ティファニー庭園美術館前駅」改称。
 ダントツの23文字で、今度こそ正真正銘の日本一長い駅です。
 ちなみに余談ですが、前の駅との駅間距離が短いので、
 ワンマン列車の車内放送が、駅到着まで間に合わないそうです。

 さて、日本一なんて狭い視界ではいけません。
 ワールドワイドに今度は世界一長い駅名を取り上げてみましょう。
 もはや駅名と言うより、ただアルファベットを並べただけのような
 「LLANFAIRPWLLGWYNGYLLGOGERYCHWYRNDROBWLLLLANTYSILIOGOGOGOTH」駅。
 なんと驚きの58文字で、「スランバイルフーフィンゲフォーゲルフェルロボ
 サンティシリオゴーゴーゴー」と読みます。
 これはイギリスにある無人駅で、「ティシリオ教会の赤土の洞窟そばを流れる
 激流近くの白い榛の窪みに建つメアリ教会」という意味らしいです。
 ……これが世界一だと私もついさっきまで思っていたのですが、
 調べてみたら同じイギリスで、驚きを通り越して呆れ果てる
 67文字の「GORSAFAWDDACHAIDRAIGODANHEDDOGLEDDOLLONPENRHY

 NAREURDRAETHCEREDIGION」というギネスが世界一と認定した駅があるとか。
 私も詳しくは知らないので、もし情報をお持ちの方がいたら教えてください。

 それでは最後に世界一長いと思われる都市の名前を紹介しましょう。
 「クルンテープ・マハーナコーン・アモーン・ラタナコーシン・
 マヒンタラーユタヤー・マハーティロックポップ・トッパラッタナ・
 ラーチャターニー・ブリーロム・ウドム・ラーチャニウェート・
 マハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティト・
 サッカタットティア・ウィサヌカム・プラシット」という都市です。
 この都市を世界一般では「バンコク」と呼んでいます。
 バンコクとはもちろんタイの首都であるバンコク。
 ちなみに意味は「天使の都、偉大な都、エメラルドの仏陀の住む都、
 インドラ神の住む信仰篤きアユタヤの都、9つの宝石を授けられた
 世界の大いなる都、神の化身が住まわれる天国の様な固き王宮の幸多き都、
 インドラ神によって与えられヴィシュヌ神によって造られた都」。
 要は「すっげぇいい所だよ」って文章をそのまま地名にしちゃった感じ。
 もともとバンコクと言う呼び名は他国人だけが使っていた呼び名でしたが、
 今では現地人もこの長い名前で呼ばずにバンコクと言っているそうです。
 正確な地名を地図に書き込もうとしたら、
 周囲の地域が文字で見えなくなってしまったり色々不便ですしね。

 そんなわけで世界には無駄に長い名前がまだまだたくさんあります。
 気になったら皆さんも色々探してみてください。

 以上、無駄に長いハチポチでした。

 

vol.035 1月12日号 222部

この頃はまだ豆知識が流行ってなかったのになぁ。
今この話したら二番煎じどころの騒ぎじゃないよね。