第28回「クリスマス会の地獄絵図」

 皆さんはサンタの存在を何歳まで信じていましたか?
 そしてサンタが空想上の生き物だと何故知りましたか?

 私は幼稚園の年少組の頃には、もう既に真実を知っていました。
 枕元に飾った靴下の中に朝起きたらプレゼントが入っているなんて
 夢のある行為は我が家の年中行事に組み込まれておらず、
 晩御飯のときに父親から直にプレゼントを渡されていましたから。
 今思えば夢もへったくれも無い話ですが、
 「いい子にしてるとプレゼントをくれるのはサンタさんじゃない、
 一生懸命働いているお父さんとお母さんだよ」てな感じだったと思います。

 しかし所詮は幼稚園児の頭脳。
 心のどこかでやっぱりサンタの存在を信じていました。
 何せ子供の欲しい物を笑顔で撒き散らしてくれる、夢のような存在です。
 「我が家には来なくても、もしかしたら世界のどこかにいるかもしれない」
 そんな淡い期待を胸に迎えた幼稚園のクリスマス会。
 なんとその日、サンタがこの田舎幼稚園にやってくるという極秘情報が
 先生から園児全員に知らされました。

 ……が、「サンタなんて大人が作り出した子供騙しだ」という意見が
 当時私の所属していた「れんげ組」でも議席の過半数を超えていたので、
 クラス中は「誰がサンタの変装をしてくるのか?」で話題で持ちきり。

 しかし私にとっては「誰がサンタか」なんてどうでもいいことで、
 それより「プレゼントには何を貰えるか」ということの方が
 気になって仕方ありませんでした。
 実際には「サンタの存在を心のどこかで信じている」のではなく、
 「プレゼントを親以外の誰かから貰いたい」と願っていただけだったのです。

 そしてクリスマス会のラスト、遂にサンタは登場しました。
 赤い帽子、赤い服、茶色のブーツ、顔には白いヒゲ。
 テレビや絵本の中で見たことのある、これ以上無いサンタの格好です。

 みんなが各自思い描いていた「サンタ像」そのままのサンタ登場に
 クリスマス会会場は異常な盛り上がりに包まれ、
 みんなでサンタに向かって「プレゼントくれ、プレゼント」の大合唱。
 「お前に遭えた充実感なんかでは腹の足しにはならない、何か物をくれ」
 そんな物欲主義の塊、餓鬼のような幼稚園児たちがサンタを取り囲み、
 プレゼントをギッシリ詰め込んだらしき白い袋へと手を伸ばしていく。
 戦後の闇市を再現するような光景に危険を感じたサンタは
 挨拶もそこそこに、肩に担いでいた袋からプレゼントを取り出した。

 サンタの手が持っていたのは、スーパーで50円ぐらいのお菓子。
 それを園児一人一人に配り始めたのです。
 もちろんみんなは大ブーイング。
 「僕が欲しかったのはプラモデルだ!」「オレはゲームだ!」「私は人形!」
 みんな一応はサンタから手渡されたお菓子をポケットにねじ込み、
 それから自分が欲しかった物と実際に貰った物との落差に激怒した。
 
 当時は「サンタなんていないことを見破るのが大人」と思っていた時期なので
 サンタ……いやサンタの変装をした男に向かって、
 みんな一斉に「変装だ!」「嘘つき!」など鋭い言葉を投げつけた。

 園児による不平不満が爆発し、会場のボルテージが最高潮まで達した瞬間、
 「静かにしなさい!」と一喝した先生の声が会場中に響き渡った。
 それでも自分が欲しかったプレゼントを言う園児に対して先生は
 「それは家でもらいなさい、ここではお菓子をあげます」の一言。
 園児たちは理不尽さを感じながらも何となく落ち着きを取り戻し、
 もくもくとサンタの格好をした男から安いお菓子を貰っていきました。

 クリスマス会は最悪の雰囲気のままお開きとなり、
 みんな「やっぱりサンタはいない」と確信して会場を後にしました。
 帰り際に私は、サンタの衣装をカゴに入れたママチャリで
 幼稚園から出て行く中年男性の姿を発見。
 その男性は幼稚園の隣の小学校へと消えていきました。

 「………偽サンタがどうして小学校に行くんだ?」
 その理由は当時の私には全く分かりませんでした。
 そんなことよりポケットの中に入っている、私の嫌いなお菓子を
 どう処理するかの方が当時の私にとっては急務でした。

 その謎の中年男性の正体を知るのはそれから2年後。
 小学校の入学式で校長と名乗る男が壇上に上がった時でした。

 

vol.028 12月25日号 215部

長いですねぇ、この話。
いつか書き直さなければなりませんね。