第15回「成りあがり」

 今日、暇だったので某大型古本屋に行った。
 しかし欲しかった本が見つからなかったので、ぶらぶら店内を物色していると、
 異様なオーラが漂っているスペースを見つけた。
 ノストラダムスの大予言を無茶な解釈して喜んでいる90年代発行の本や
 猿岩石についてやたら密着取材を試みた本が棚の殆どを占拠している光景。
 「みんな流行に惑わされて正しい判断ができなかったんだなぁ」と思っていたら、
 後ろで男性が店員に本の場所を尋ねている声が聞こえた。

 「すいません、矢沢栄吉の『成りあがり』って本ないですか?」

 そちらの方を見てみると、30前くらいの男性が小さな子供を抱えていた。
 その言葉から察するに、おそらく昨日のドラマに感化されたのだろう。
 私は矢沢栄吉氏がどんな歌を歌い、どれほどの人気なのかよく知らない。
 彼の自伝「成りあがり」がベストセラーになったことは聞いているが、
 もちろんそれも本の内容を知っているわけではない。
 しかしフジテレビでドラマ化するというCMを見て、戸惑った。
 「これをいったい誰が見るんだろう?」と。

 母がどうしても見たいというのでしぶしぶ見ていて気づいたことがひとつ。
 「これほど視聴者層を限定したスペシャルドラマも珍しい」
 ターゲットは矢沢栄吉氏の音楽に一度は惚れた人間のみに絞られていた。

 ベストセラーの原作を読んでいないので、元々こういう話なのか、
 2時間に収まるように縮められたり、脚色された話なのか分からない。
 だがドラマだけを見た私が感想をひとこと言わせて貰うと、
 矢沢栄吉氏を格好よく描きすぎ。

 不幸な生い立ちも、彼女との出会いと付き合い始め方も、
 バンド結成秘話も、貧乏時代も、全部が格好よすぎてどうも嘘臭い。
 いや、事実だけを取り上げて並べれば全て本当のことなんだろうけれど、
 作り手が意識して格好よく描こうとしているように私は感じてしまった。
 まぁあのドラマは矢沢ファンに向けて作られたドラマなので、
 格好よすぎてちょうどいいのかもしれないけれど。

 そういえば、古本屋で『成りあがり』を手にしたあの子持ちの男性にも
 成りあがってやろうと頑張って打ち込んだ何かがあったのだろうか。
 そして成り上がることに成功したのだろうか。
 本の購入場所が古本屋というところが、なにか嫌な予感がする。

 

vol.015 11月25日号 188部

気に入らなかったので前半部分を書き直しました